日本でもここ数年人気があるドイツの伝統菓子シュトーレン。
シュトーレンはバターをたっぷり使った生地にラム酒などに漬け込んだドライフルーツやナッツ、スパイスを練りこんだクリスマスにふさわしいリッチなパンです。
スパイスと砂糖の甘い香りがクリスマスムードを盛り上げてくれます。
クリスマスが近づくと洋菓子店やパン屋さんの店頭でシュトーレンが出回るようになりましたが、シュトーレンはどんなお菓子なのでしょうか?
この記事ではシュトーレンの由来や意味、クリスマスの定番と言われている理由を詳しく解説します。
シュトーレンになじみがなくても、その由来や意味を知ることで、シュトーレンがより味わい深くなりますよ。
シュトーレンの名前の由来とは?
シュトーレンという名前は何に由来しているのでしょうか。
シュトーレンという言葉は、「柱」「支柱」を意味する古代ドイツ語のstolloという言葉が語源と言われていて、「坑道」や「地下道」という意味があります。
お菓子のシュトーレンはトンネルのような形をしているため、このシュトーレンという名前になったと言われています。
日本では一般的に「シュトーレン」と言われますが、ドイツ語ではStollen(シュトレン)と発音し、長く伸ばしません。
主にクリスマス時期に食べられるため、クリストシュトレン(Christstollen:キリストのシュトーレン)とも言い、その形は幼子のイエスがおくるみに包まれている姿を表しています。
シュトーレンの意味とは?
シュトーレンにはどのような意味があるのでしょうか?
実は、シュトーレンが現在のようなお祝いのお菓子になるまでには、長い歴史があるのです。
ここからは、シュトーレンの歴史についてご紹介します。
もともとは断食用のパン
シュトーレンの歴史は、14世紀までさかのぼります。
1329年にナウムブルクの司教が、この町のパン職人たちに組合を作ることを許可しました。
その代わりに、パン職人たちは毎年主教に税金を払い、シュトーレンを献上したという記録が残っています。
現代のシュトーレンはバターや砂糖、フルーツやナッツがふんだんに入った豪華なパンですが、当時のシュトーレンは水、えん麦、菜種油でつくられた素朴なもので、とてもおいしいとは言えないものでした。
なぜそのような材料しか使えなかったかというと、クリスマス前の断食期間はぜいたくが許されず、卵や乳製品を食べることが禁じられていたからです。
ザクセンの選帝侯エルンストとアルブレヒト3世の兄弟が、ローマ法王にバターの使用を許可してくれるよう手紙を書きましたが、認められませんでした。
その後、1491年に当時のローマ法王であるインノケンティウス8世がバターの使用を認めたため、油の代わりにバターを使えるようになりました。
このような歴史的背景から、シュトーレンといえばザクセンのドレスデンが本場とされています。
権威の象徴となった巨大シュトーレン
ザクセン州のシュトーレンにまつわる歴史で、もう一つ忘れてはならない有名な話があります。
それは、1730年にザクセン王アウグスト2世が行った軍事演習です。
その際、重さ1.8t、長さ7m、幅3m、高さ30㎝もある巨大シュトーレンを作らせました。
その巨大シュトーレンを焼くために専用の巨大窯を作らせ、できあがったシュトーレンを8頭立ての馬車にのせて運ばせた後、招待客にふるまったということです。
これにはザクセン王の強さ、権威、偉大さをアピールするという目的がありました。
この歴史的イベントを記念してドレスデンでは毎年シュトーレン祭りが開催されています。
質素なパンから高級なお菓子へ
精製技術が発達していなかった当時、ドイツでは主にライ麦のパンが食べられていました。
そのため、18世紀になっても白い小麦のパンは上流階級が食べる特別なもので、白い小麦を使っていたシュトーレンは庶民には手が届かないものでした。
19世紀中ごろに砂糖の工業生産が始まり、そのころからシュトーレンの表面に粉砂糖がふりかけられるようになります。
それでも、砂糖は高級品のため楽しんでいたのは富裕層だけでした。
人々の生活が豊かになった20世紀から、シュトーレンは現在のような材料が使われ、家庭でも焼かれるようになりました。
シュトーレンの種類と規定
ドイツではシュトーレンの種類ごとに使用する原材料が決められています。
というのも消費者保護の観点から、さまざまな食品においてガイドラインが設けられているからです。
例えば、本場ドレスデンの「ドレスナー・シュトーレン」は1000gの粉に対し、バター500g、サルタナレーズン650g、レモン・オレンジピール200g、スイート種・ビター種アーモンド150gが含まれていないといけません。
重量は500g以上と定められており、人工香料やマーガリンの使用は認められておらず、型を使用して焼くことも禁じられています。
ドレスナー・シュトーレン以外にもさまざまな種類のシュトーレンが作られており、ドイツ全土で親しまれています。
こちらは代表的なシュトーレンです。
Butterstolle(ブッダ―シュトーレン):バターの分量が多いシュトーレン
Mandelstollen(マンデルシュトーレン):アーモンド入りのシュトーレン
Marzipanstollen (マジパンシュトレン):マジパン入りのシュトーレン
Mohnstollen (モーンシュトレン):ケシの実入りのシュトーレン
Quarkstollen (クワルクシュトレン):クワルクというチーズ入りのシュトーレン
ちなみに、シュトーレンの材料には粉1000gに対して、バター300g、ドライフルーツ600gを使用しないといけないと定められています。
多様化するシュトーレン
シュトーレンの生地にはレーズンやオレンジピール、ドライナッツを使うのが定番です。
しかしながら、それ以外にもお店によってさまざまな材料を使ったシュトーレンが販売されています。
例えば、粉砂糖ではなくダークチョコレートやホワイトチョコレートでコーティングされていたり、生地に抹茶やチョコレートが練りこまれていたり、オリジナリティのあるシュトーレンが次々と登場しています。
また、シュトーレンにはバターと砂糖がたっぷり使われているため、カロリーが気になる人のために乳製品や白砂糖を使わないヘルシーなシュトーレンもあります。
いろいろなお店のシュトーレンを食べ比べて、自分好みのシュトーレンを見つけるのも楽しそうですね。
シュトーレンの食べ方
シュトーレンは一般的にアドヴェント期間から食べ始めます。
アドヴェントとはクリスマスからさかのぼって4回の日曜日のことで、クリスマスを迎える心の準備をする期間のこと。
各家庭では、もみの枝と4本のろうそくで「アドヴェントクランツ」というリースを用意します。
そして、1週目の日曜日(第一アドヴェント)にろうそくを灯し、シュトーレンを食べるのです。
シュトーレンは薄くスライスして少しずつ食べるのが決まり。
端からではなく中央から半分に切り、内側から外側に向かってスライスし、食べた後は切った断面をぴったりくっつけて、ラップやアルミホイルなどで包み保存します。
シュトーレンは時間をかけて少しずつ食べることで味の変化が楽しめるお菓子。
このようにカットして食べることで乾燥を防ぎ、長期間おいしい状態で食べることができます。
ちなみに、シュトーレンはクリスマス期間しか食べないわけではありません。
賞味期限に問題がなければ、クリスマスが終わって年が明けても食べても構いません。
今年のクリスマスはシュトーレンでお祝いしよう
ドイツのクリスマスには欠かせないお菓子、シュトーレン。
トンネルのような見た目のため、シュトーレンと名付けられ、クリスマス時期に食べられるシュトーレンは「クリストシュトレン」とも言われ、キリストのおくるみ姿を表しています。
もとは断食期間中に食べる質素な味気ないパンでしたが、長い時を経て風味豊かでリッチなお菓子になりました。
近年は伝統的なシュトーレンだけではなく、さまざまな材料を使ったバリエーションに富んだシュトーレンが作られています。
時間とともに少しずつ変わっていくシュトーレンを味わいながら、クリスマスを心待ちにする。
今年はシュトーレンとともにドイツ流のクリスマスを楽しんでみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございます。
【参考文献】
「ドイツ菓子図鑑 お菓子の由来と作り方」 森本智子(著)株式会社誠文堂新光社
「ドイツパン大全」森本智子(著) 株式会社誠文堂新光社
「シュトレンSTOLLEN ドイツ生まれ発酵菓子、その背景と技術」 シュトレン編集委員会(編) 株式会社旭屋出版社
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